今年は新型コロナウイルスの世界的蔓延により、遂に東京オリンピックが延期となりました。標題の「病が語る日本史」は、平成14年4月講談社から発行(著者:酒井シヅさん)された本で、現コロナ災害時に最適な本と考え、書棚から探し出し読み返しました。著書の「あとがき」が大変解りやすく、そのままご紹介させていただきます。
「現代人にとって医学や医療は、誰にとっても多かれ少なかれ、関心のある話題である。とりわけ、健康への関心がいちだんと高まっている昨今は、誰もが健やかに長生きすることを望み、最後はぽっくり死ぬことができればと願っている。だが、ままならない。胎内にいるときから危機にさらされ、生まれたあとも、さまざまな危険が待ち受けていて、健やかに生きることは容易ではない。しかし、むかしは生まれること自体、もっとたいへんであった。そして生まれても、天然痘や消化不良で、ばたばたと死んでいった。天然痘を無事に乗り越えたときに、はじめて誕生を祝い、名前をつけた地方もあった。その上、一人前に成長するまでに、命を脅かす、さまざまなことに出会った。だから、こどもの成長にあわせた通過儀礼が重い意味をもったのである。本書では、遠い昔、縄文時代にまでさかのぼって振り返り、遺跡から発掘された骨が語る縄文生活に耳を傾け、きびしい環境で暮らした縄文人の生き様に思いを馳せた。その骨は、強靭な生活力や、自然治癒の威力をまざまざと見せてくれる。われわれも本来、このような自然治癒力をもっているはずであるが、人工的は環境の中で失われてしまったのだと教えてくれる。弥生時代になると、結核を病んだ骨が現れる。結核は二十世紀に抗結核剤が見つかるまで、人類を痛めつけてきた。梅毒もまた、人類を苦しめた病であった。病んだ骨が、江戸時代の遺跡から無数に発掘される。梅毒はいまは、抗生物質で治るようになったが、ひとつの病が治るようになっても、エイズのように別の病が現われて、われわれを慌てさせる。古代では、神が疫病を支配すると信じ、疫病が広がるのは、天皇の失政に対する神々の怒りの現れであると、天に向かって神々の怒りをとくために大々的な祈祷を行った。祈祷が医療より優先したのである」
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